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初の商用規模の宇宙工場となる衛星の打ち上げが、今年9月に予定されている...... Space Forge

<真空・低温・微重力の宇宙空間を生かし、優れた合金などを自動運転で製造する>

宇宙開発ではこれまで、地上で生産した機材を宇宙空間へと持ち込むのが常識だった。この逆の流れが現実になろうとしているようだ。宇宙に工場を打ち上げ、製造した素材や半導体を地上へと輸送する計画が進んでいる。商用規模としては初の工場となる衛星の打ち上げが、今年9月に予定されている。

初の商用規模の宇宙工場となるのは、「ForgeStar-0(フォージスター・ゼロ)」と名付けられた人工衛星だ。イギリスのスタートアップであるスペース・フォージ社が開発した。

宇宙空間は地上と比較して、絶対零度に近い低温、真空、そして微重力という特徴がある。この環境を生かし、地上では製造が難しい高品質の合金と半導体を製造する計画だ。英インディペンデント紙は、「地球では製造不可能」な素材が製造できるようになると報じている。

スペース・フォージ社は複数の衛星を地球の低軌道に投入し、宇宙での製造完了後は地球に帰還させて衛星本体を再利用する運用を想定している。南部コーンウォール空港に併設されるコーンウォール宇宙港から、今年9月に最初のテスト用の打ち上げが行われる。このロケットはまた、イギリスから打ち上げられる初のロケットとなる。

重力を無視できる宇宙空間は、素材づくりに最適
ForgeStar-0は宇宙空間の特徴を生かし、高精度の合金や効率の高い半導体などを製造する。共同創業者のジョシュア・ウェスタン氏は、英ウェールズ・オンラインに対し、「地球はモノをつくるにはとても難しい場所だといつも説明しています」と語る。

氏によると、重力のある地球上で金属を混ぜて合金を作る場合、比重の重い鉛が沈み、軽いアルミが浮き上がるなど、2層に分離しやすいのだという。また、生命に重要な地球の酸素は、金属にとっては酸化という厄介な問題を引き起こす。こうした問題が起きない宇宙空間は、軽量かつ剛性の高い合金など、質のよい金属の生成に最適だ。

事業化にあたり同社は、コストの問題もすでにクリアしたようだ。コーンウォール宇宙港は垂直離陸式の打ち上げ方式を採用しておらず、航空機と同様の水平離陸式滑走路を利用する。英スカイ・ニュースは、インフラ整備費用と打ち上げコストを抑制できる方式だと説明している。

また、記事によると、最近では打ち上げ価格が1キロあたり830ポンド(約13万7000円)にまで下がっている。参考として、航空機用タービンに使われるニッケル合金は、キロあたりの価格が打ち上げ費用の10倍と高価だ。打ち上げコストの低下により、宇宙での製造がコストに見合う時代になってきたようだ。

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