世界インフレはロシア発なのか?
2022年の金融市場を振り返ると、米国を中心に株式市場は年初から大幅な調整に見舞われた。11月にやや反発しているが、S&P500の年初来リターンは2018年以来のマイナスとなる可能性が高い。2月のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、エネルギーや食料品価格上昇が起きたことなどで高インフレへの懸念が広がり、米国を中心に世界の株式市場は約1年にわたり弱気相場が続いた。

ロシアによる軍事侵攻は多くの人にとって想定外で、安全保障や国際政治の点においても大きな出来事だった。このため、今年のインフレ上昇は、ロシア発の危機がもたらしたと考える方も多いだろう。確かに、世界中でガソリン価格の上昇が起きて、米国などでもガソリンや食料品高が政治問題になった。ただ、米国における高インフレの主たる要因はロシア発の紛争とは言い難い。

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実際に、2022年央に原油などの資源価格はピークを打ち、また財価格上昇を招いたサプライチェーンの目詰まりが制約になる問題もやはり年央から改善が続いている。それでも、2022年後半まで米欧では高インフレが続いている。

特に米国では、賃金上昇がサービス分野の価格上昇をもたらし、これがインフレの主役になっている。つまり、仮に今年ロシア・ウクライナ危機が起こらなくても、米国における高インフレは政治的にも、そして金融市場にとっても、大きな問題になっていたことに変わりはなかっただろう。

このため、米国の高インフレは、インフレ安定の責任を負うFRB(米連邦制度準備理事会)のインフレ安定化策がうまくいかなかったことが、より大きな原因だったといえる(筆者自身も、年初の時点で米国の高インフレを予想していなかった)。そして、高インフレに直面したFRBは0.75%もの「異例の」大幅利上げを、5月から4回にわたり行った。インフレ制御には必要な対応だが、急ピッチな利上げを余儀なくされたことで、経済活動に大きな負荷を及ぼしつつある。

FRBの政策対応によって、今後、経済成長とインフレの「程よい減速」が起きて、政策対応が成功する可能性もある。ただ、大幅な利上げを行ったことで、2023年の経済活動に及ぼすダメージが大きくなる、と筆者は警戒している。今年停滞した米国株市場だが、2023年は業績悪化懸念が新たな懸念材料になりそうである。

日本の物価はどうだったか?
ところで、FRBのインフレ安定化政策がうまくいかずに高インフレが問題になった米国と、日本の状況と比較してみよう。日本でも今年は「物価高」がメディアで伝えられ、為替市場で円安ドル高が進んだことも物価高懸念を高めた。「物価高で家計の生活が苦しくなる」とメディアの報道が増えるたびに、岸田文雄政権はガソリン価格抑制政策などの対応を行った。

日本の10月消費者物価(生鮮食品除く)は前年比3.6%と、40年ぶりの上昇幅となった。ただ、二ケタ近い高インフレとなった米欧と比べれば上昇幅は小さく、そしてエネルギーや食料品などの価格上昇に偏ったままである。エネルギーと酒類以外の食料を除いたベースでは前年比+1.5%で、2022年初から前月比ベースで年率2%程度で推移していると試算され、サービスの価格上昇の裾野が更に広がれば、2%インフレ実現がかなり近づいている状況である。

つまり、日本でも、他国同様に資源、食料品価格上昇に直面したが、日本銀行が目標とする「2%インフレ」の一歩手前まで至ったという段階である。こうした判断から、日銀は「最後の一押し」として金融緩和徹底を続けている。