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岡山県の用水路(画像:岡山県)

 後続車を先に行かせようと道路脇のスペースにハンドルを切った結果、側溝にハマってしまい、車が損壊した福井県敦賀市の男性――。

 2022年11月に発生したこの事故で、男性は壊れた車の修理費として60万円余りを支払うことになった。しかしながら、事故原因となった側溝を管理する福井県が提示した賠償額はわずか11万円だった。当然ながら、男性は憤慨している。

 このニュースは、週刊誌『フライデー』のインターネット記事「「ひどい話ですよ」福井県が道路の側溝のフタを外す“落とし穴“を作った驚きの理由」(2023年4月2日配信)で報じられ、その後、地元紙『福井新聞』でも取り上げたことで、県内外で注目を集める騒ぎとなった。ヤフーニュースに配信された『フライデー』の同記事には、なんと3500件以上のコメントが付いている(4月8日時点)。

 報道を受けた県側は、排水機能の向上やコスト削減などの理由でフタのない側溝が存在することを説明。さらに事故を受けて対策を講じるとコメントしている。-

 道路脇の側溝にフタも柵もなければ、転落の危険があるのは当然だ。しかし側溝以上に危険なものがある。側溝よりも巨大で、フタも柵もない

「用水路」

である。柵がなければ、街灯のない夜間だけでなく、日中でもなにかの拍子に転落する危険がある。筆者(昼間たかし、ルポライター)は福井県のニュースを読んで「岡山県」の用水路を思い出した。

 岡山市南部や県南部の倉敷市には、そのような用水路が当たり前に存在している。当然、転落事故は多い。

「1日1件以上」転落事故が発生

 2020年3月に岡山県がまとめた「用水路等転落事故対策ガイドライン」には、2013(平成25)~2016年の消防本部の統計が掲載されている。

 これによれば、この期間の用水路への転落による出動件数は1562件だ。年平均では391件となり

「1日1件以上」

の転落事故が発生している計算だ。

 悲惨な事故になる事例も多い。事故に遭った人のうち中等症以上(死亡・重症・中等症)のけがを負ったのは全体の47%にあたる736人、そのうち

「108人」

は死亡している。

 このほか統計によると、年齢別の事故被害者は65歳の高齢者が全体の54%であることや、転落の際に使っていた交通手段は徒歩が53%、自転車が27%となっていることも記されている。毎日のように誰かが転落するゆえに、岡山の用水路は、誰が呼んだか

「殺人用水路」
「人食い用水路」

と呼ばれるようにもなっている。

転落防止対策は「10年にも満たない」

 もちろん行政も手をこまねいているわけではない。

 岡山市では2015年9月以降、危険箇所のチェックを行い、柵を設置するなどの工事を行っている。倉敷市でも同様だ。また、県でも前述のガイドラインを市町村や関係団体に配布し、注意喚起と転落対策強化に務めている。