2021年10月25日 07時00分 公開
[ITmedia]

 サントリーホールディングスの新浪社長の発言をきっかけに、45歳定年制が話題になり、その賛否の議論が展開している。人事コンサルタントである私の関心は「定年制」という言葉ではなく「45歳」に向いた。なぜ、「45歳」なのかということである。

 その背景には、日本企業が長年行ってきた人事制度の慣習があるのではないだろうか。その考察と人材の流動化の可能性について考える。

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なぜ、「45歳」なのか(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

海外と違う? 「管理職になれる人となれない人」の分岐点
 日本の人事の年功化の問題は、かなり前から指摘されている。その年功化の原因には昇格人事があると考えられる。人事制度の運用は主に資格等級制度に基づいて行われるが、その等級が上がることを昇格という。

 昇格は人事評価や上司推薦などが反映されて行われるが、重要なのは下記の2つの時期だ。

(1)昇格のスピードに差が表れる時期
(2)ある等級以上に昇格できるか否かの差、つまり昇格の選抜差が生ずる時期

 昇格は人事評価と連動している場合が多いので、優秀な評価を得れば昇格のスピードは速くなるが、人事評価が低いと遅い昇格となる。ポストによっては、昇格できる人とそうでない人が出てくる。

 このように昇格に明確な差が生ず時期が、入社何年目ごろになるのかがその国の慣習が反映されるポイントとなる。
(1)昇格スピードの差が明確になる時期
 下記の図1は、労働政策研究・研修機構のデータをもとに、日本、米国、ドイツにおいて昇格スピードの差が明確になる入社後の年数を、まとめたものである。

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図1:昇給の国際比較(以下、図は労働政策研究・研修機構のデータをもとに筆者が作成)

 米国とドイツが約3年経過後であるのに対し、日本は7.9年後である。大卒者の場合、米国とドイツが25歳台であるのに対し、日本が約30歳である。日本は約30歳までほぼ横並びの自動昇格をしているといえるのに対して、米国とドイツは、20歳第半ばで人事評価を厳格に反映して、優越を昇格のスピードに反映している。
(2)昇格の選抜差が明確になる時期
 昇格の選抜差とは、ある等級以上に昇格できる人と、できない人が明確に出てくることである。つまり限られた人しか昇格できないポイントがあることを意味し、その代表的な例が課長職などの管理職への昇進昇格である。

 一般的な日本企業の場合、新入社員のうち係長クラスまで昇進昇格できるのは同期入社の約50%といわれている。さらにその上位の課長に昇進昇格できたのは係長クラスの約50%とされ、同期入社の中で管理職に昇進昇格できるのは約25%となる。大企業の場合は従業員数が多いので、限られた管理職のポストにたどり着けるのは10%以下となる例もある。

 他の者は管理職まで昇進昇格できないので、こうした25%や10%の枠に入れない約80%の人材は、非管理職のままで定年を迎えることになる。

 この昇格の選抜差が入社してから何年後に生ずるかについてまとめたのが、図2である。米国は9年目、ドイツは11年目であるのに対し、日本は22年目と極端に遅い。

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図2:昇格できる人材と、できない人材に分かれるポイント

 これを年齢で見てみると、管理職まで昇格できる者とできない者が明確に分かれる年齢は、米国が31.1歳、ドイツが33.5歳であるのに対し、日本は44.3歳である。

 つまり日本は、昇格にスピードの差はあるものの、40歳半ばまではほぼ横並びの昇格を長期間継続していることになる(図3)。これが日本企業の人事が年功化になる原因の一つと考えられ、諸外国と比較すると特異な人事運用といえる。

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図3:欧米と日本の年齢による昇格人事の差

夢が破れる年齢とは?
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