https://hochi.news/articles/20211225-OHT1T51205.html
2021年12月26日 12時0分スポーツ報知

https://hochi.news/images/2021/12/25/20211225-OHT1I51270-L.jpg
森永卓郎



 岸田総理肝いりの金融所得課税は、与党の税制改正大綱に「検討することが必要」と書かれただけで、実現しなかった。しかし、岸田総理は諦めていない。いまの所得課税があまりに不公平だからだ。

 現在の税・社会保険制度では、社会保険料の企業負担分を含めると、年収600万円の人の税・社会保険料負担率は40%だ。ところが、年収10億円は28%、年収100億円は21%と大幅に小さくなる。これは、社会保険料に負担上限があることと、富裕層の所得の大部分を占める金融所得が、分離課税で、20%の定率になっているからだ。

 だから、格差是正の財源を得るためにやらなければならないことは、分離課税を廃止し、所得を合算して累進税率を適用する総合課税に移行することだ。アメリカの金融所得課税は、連邦税は分離課税だが、所得額に応じて0〜20%の累進課税だ。また地方税のほうは総合課税になっている。所得が多いほど税率が上がる普通の所得税制になっているのだ。

 ところが、財務省が狙っているのは、金融所得の総合課税化ではなく、税率の引き上げだとみられる。富裕層の税負担を2倍以上に引き上げれば、強い反発を受けるうえに、富裕層の数はさほど多くないから税収はさほど増えない。それよりも、例えば税率を5%引き上げるだけで、数兆円の税収増が期待できる。しかも金融資産を大量に抱え込んでいるのは、高齢者だから、政治的に大きな反発を受けることはない。

 ただ、そうなると、格差是正を掲げた金融所得課税は、資産はあるが所得の低い高齢者の生活を直撃することになる。結局、分配政策の強化は、富裕層から低所得層ではなく、高齢層から低所得層への所得移転になってしまうのではないか。(経済アナリスト・森永卓郎)