https://mainichi.jp/articles/20220116/k00/00m/020/003000c

毎日新聞 2022/1/16 17:30(最終更新 1/16 17:30) 有料記事 3690文字




https://cdn.mainichi.jp/vol1/2022/01/16/20220116k0000m020019000p/9.jpg
窓も素材によって断熱性能が大きく異なる=東京都新宿区で2021年9月27日午後、中津川甫撮影

 脱炭素社会へ変化を迫られる社会。産業界では既にさまざまな取り組みが進んでいるが、政府の計画上、最も高い二酸化炭素(CO2)排出量の削減率を迫られているのは家庭部門だ。暮らしに不可欠なエネルギーの消費をいかに減らすか。住まいの脱炭素化を追った。【中津川甫】

断熱がもたらす省エネ
 「昔の家」「今の家」「これからの家」――。東京都新宿区にある住宅設備大手リクシルの「住まいスタジオ」は家の断熱性能の違いを時代別に体感できる。窓の外を真冬並みに寒い環境にしたうえで、それぞれエアコンの温度を20度に設定している。

 まず「昔の家」。中に入ると、部屋の四隅に隙間(すきま)風が入ってきた。廊下やトイレはさらに冷え込んでおり、思わず腕を組んで背中を丸めてしまった。床の温度は15度。靴下越しに冷気が伝わる。

 次に「今の家」。気密性が上がり、部屋の四隅も暖かい。それでも床の温度は17度。暖かさにはもの足りなさが残った。最後に「これからの家」に入ると、思わず「暖かい」と声が漏れた。トイレや廊下ですら、リビングなどとの温度差をあまり感じない。床の温度は19度と室温に近かった。

 住宅には国が定める省エネ基準があり、「昔の家」が1980年制定の基準なのに対し、「今の家」は2016年に制定された現行の基準。しかし、日本の既存住宅の約9割はこの省エネ基準を満たしていない。

 断熱性能の低い家は、夏は外の熱気が侵入し、冬は暖房で暖めた空気が外に逃げてしまう。「夏に暑く、冬に寒い」家になる分、冷暖房を動かすエネルギー消費は増える。家庭における地球温暖化対策は、断熱性能をいかに強化するかがカギを握っている。

周回遅れの日本
 「日本は欧州に比べて20年、30年も遅れている」

 50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを宣言した菅義偉前政権の下、昨夏まで開催された建築物のあり方を考える政府の検討会。東北芸術工科大の竹内昌義教授(建築学・1級建築士)は断熱性能を高めてこなかったこれまでの住宅行政を厳しく批判した…

この記事は有料記事です。
残り2834文字(全文3690文字)