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“昆虫”ときいて何が思い浮かぶだろうか。カブトムシ、チョウ、ハチ、カ、アブ、アリ、ゴキブリ……私たちの認識している昆虫はほんのわずかだ。虫はどんなところにも存在している、そして虫の世話になっていない人は地球にひとりもいない。今この時も黙々と地球を回す昆虫たちの壮大な世界をのぞいてみたい。

※本稿は、アンヌ・スヴェルトルップ=ティーゲソン 著『昆虫の惑星 虫たちは今日も地球を回す』(&books/辰巳出版)を一部抜粋・編集したものです。

地球は昆虫の星である
この世界には、ヒト1人につき2億匹以上の昆虫がいるともいわれる。みなさんがこの文章を読むあいだも、地球上では膨大な数の昆虫がせっせと活動を続けている。わたしたちヒトは昆虫に包囲されているといってもいいだろう。地球は、昆虫の惑星なのだ。

昆虫は恐ろしく数が多いので、全体像を把握するのはむずかしい。そして昆虫はどこにでもいる。森林、湖、牧草地、川、ツンドラ、山にも。

たとえばカワゲラは、ヒマラヤの海抜6000メートルの高所にも生息しているし、ミギワバエの幼虫のように、気温が摂氏50度を超える灼熱のイエローストーン公園の天然温泉に棲んでいるものもいる。

世界でも屈指の深さを誇る洞窟の闇の中には、視力のないユスリカのなかまがいる。教会の入口に置かれた洗礼盤の水、コンピュータの内部、地面にこぼれた車のオイル、胃酸と胆汁に満ちた馬の胃の中にも昆虫はいる。砂漠、凍りついた海、雪の下、セイウチの鼻の穴にもいる。

昆虫はすべての大陸にいる(ただし南極大陸にいるのはいまのところナンキョクユスリカという一種だけで、それも気温が摂氏10度を上回る日が続くと死んでしまう)。

海の中にも昆虫はいる。アザラシやペンギンの尻には、さまざまな種のシラミがついていて、宿主が海にもぐってもしがみついて離れない。ペリカンののど袋に棲むシラミや、6本の脚を広げて海面を滑りながら海の上で一生を過ごすアメンボもいる。

体は小さくても、昆虫の能力は驚くほど多彩だ。たとえばヒトが地球にあらわれるずっと前から、昆虫は農耕と牧畜をおこなっていた。シロアリは菌類を栽培して餌にするし、アリのなかにはヒトが乳牛を飼うように"アブラムシを飼う"種もある。

スズメバチはセルロースから紙をつくった最初の生きもので、トビケラの幼虫はヒトが魚獲り用の網をこしらえる何百万年も前から、網のようなもので獲物を捕らえていた。

昆虫は空気力学と航空術というむずかしい課題も、数百万年前に克服している。火の扱いこそ習得しなかったが、少なくとも光は味方につけている。体の中で光をつくりだす昆虫もいる。