程よい苦みが魅力で、居酒屋などで人気のシシトウ。跳び上がるような辛みのある「当たり」がまれにあり、給食や家庭では敬遠されがちだ。そんな状況を変えようと、日本一の出荷量を誇る高知県の農業技術センターが10年の研究を経て「絶対辛くないシシトウ」を開発した。年明けには県内農家向けに種を販売し、全国流通を目指す。(飯田拓)

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「絶対辛くないシシトウ」の育ち具合を確認する鍋島さん(左)と尾崎さん(高知県南国市の県農業技術センターで)

 高知県のシシトウ出荷量は2210トン(2020年産)。全国シェアは4割超で、本来の旬を外れる冬~翌春のハウス栽培に限れば8割超を占める。その多くは、飲食店を中心とした業務用で消費される。

 このため、社会科見学でセンターを訪れる小学生には「シシトウを知らない」といった声も少なくない。ビタミンCが豊富なため、地元小学校に給食用として売り込んだが、「辛いものが混ざっている」と、門前払いされることもあった。

 コロナ禍で飲食店が休業に追い込まれると、売値が例年の半値ほどになり、農家は苦境に立たされた。

 そんな中、辛みのないシシトウの開発を進めていたのは、県環境農業推進課の鍋島 怜和さとわ さん(41)。「高知のシシトウのおいしさを多くの人に知ってほしい」と2012年から本腰を入れて研究に着手した。

 辛いシシトウができるメカニズムは完全には解明されていないが、特定の遺伝子が関係しているほか、多くの農家が「水不足や高温などのストレスがかかると辛みができる」とみる。

 辛いシシトウの実には、▽光沢がない▽堅い▽緑色が濃い――といった特徴がある。通常、収穫や出荷段階で取り除いているが、完璧に判別するのは難しい。

 センターでは、見た目や香り、育ち具合を観察しながら種の周辺を味見する単純作業を続け、16~20年度、肥料や農薬などに計約400万円の研究費を投じた。

 20年に鍋島さんから研究を引き継いだ同センター研究員の尾崎耕さん(30)は「多い時で1日1000個以上味見した中には、『当たり』もあって作業が大変だった。改めて、辛みのないシシトウを作りたいと思った」と振り返る。

 交配を繰り返しながら、辛くなる遺伝子を持っていない株を選抜していき、今年3月、味の良さや育てやすさも兼ね備えた「絶対辛くないシシトウ」が完成。

 センターは農林水産省に品種登録を出願し、来年秋頃から県産ブランドとして売り出す方針だ。鍋島さんは「子どもたちにたくさん食べてもらい、家庭消費が大きく伸びてほしい」と期待している。

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