内館牧子 Uchidate Makiko                      うちだて・まきこ/'48年、秋田県生まれ、東京都育ち。武蔵野美術大学卒業後、OL生活を経て脚本家デビュー。担当したドラマは『ひらり』『私の青空』など。著書に『終わった人』『すぐ死ぬんだから』『今度生まれたら』ほか多数、新著に『老害の人』を上梓した。
「迷惑な行動をする老害はまだ元気だ」
―『終わった人』『すぐ死ぬんだから』『今度生まれたら』に続く「高齢者小説」シリーズ第4弾の『老害の人』。「老害」がテーマとなっています。

実は「老害」って、あまり具体的ではない言葉なんです。組織に居座って地位を譲らない話とか、クレーマーになって怒鳴る老人がいたなんて投書を見かけるくらい。最近よく耳にするけれどいったい老害とは何だろう、と考え始めたのが小説執筆の始まりでした。

わかったのは「迷惑な行動をする老人はまだ元気だ」ということです。要介護で若者の力を借りないといけない人を「老害」とはいいません。逆に、若い人と同じように動ける60代くらいの人も「老害」とはいわない。その狭間、頭も身体もまだ動くけれど以前のようではない70~80代くらいの老人たちが、やっかいな存在だと思われているようです。

老害の人は「かつてはこうでなかった。もっとみんなに認められていた」と主張したいんです。それは切実な思いなのでしょうが、現実は違っています。なのに、本人はハツラツと自信を持って主張するため、周囲の若い人もなかなか「やめて」と言いにくい。

―そうした人が老害と陰口を叩かれるのですね。

老人の迷惑行為に、若い頃の自慢話がからむのも特徴です。「仕事でライバルに勝った」「上司が反対した企画だったけれど一人でがんばった」なんて。学歴や経歴、退職前の肩書にこだわってアピールする人もいますよね。そんな話を一度ならず、何度も聞かされる側はたまったものではないです。

”老害クインテット”
―主人公の戸山福太郎は、カードゲームやボードゲームの製作販売会社・雀躍堂のオーナー社長でした。娘婿を3代目にして引退したはずなのに、「経営戦略室長」の肩書をもらい出社してしまう85歳です。

福太郎の自慢話には、周囲もとっくにうんざりなんです。しかし娘の明代もそうだけれど、逆らわずに我慢している。

この小説に出てくる吉田夫妻は、素人俳句に下手な絵で「趣味自慢」。竹下勇三は、臨死体験を語って「病気自慢」。人の顔を見れば「死にたい、死にたい」と言って関心を引く春子みたいな人も多いし。彼ら、彼女らには”老害クインテット”という名前をつけました。

つづき
https://gendai.media/articles/-/103495