4/16(日) 11:12   文春オンライン
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保育士から「子どもの服が汚いんですよね」と言われたことで自信喪失…そんな母親を救った「ある1冊のマンガ」との出会い から続く

《写真を見る》7歳少女が消えた「山梨県道志村のキャンプ場」

 キャンプ場でたった10分間、目を離しただけで娘が行方不明に……。失意の母親・小倉とも子さんに、さらなる試練が押し寄せる。彼女に向けられたネット上の「悪質な誹謗中傷」の数々とは?

 ノンフィクション作家の河合香織さんの新刊『 母は死ねない 』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

「朝が来るのが怖い。あの子がいないことを再認識するから」

 20年近く前に、子どもが突然失踪したある家族が静かに発したその言葉は、時を経ても私の悪夢であり続けてきた。

 当時、私は全国各地の児童失踪事件を取材していた。少し目を離した隙に娘がいなくなったことから、下の子どもがちょっと目に入らないと家の中でも心配で探さずにはいられない母。

 家族がバラバラになり離婚したいけれど、娘が戻ってくるまではそれもできないと話す母もいた。一様に自分を責め続け、そして疲弊しているように見えた。

 一方で、犯人だと疑われた人にも話を聞いたが、その家にも小さな子どもが生まれ、柱に「家内安全」の御札が貼ってあり、混乱と悲しみは深まるばかりであった。

 取材者は泣いてはいけないと編集者から言われてきたけれど、その取材で私は母たちと一緒に静かに泣いた。

 その後も、子どもが失踪してから何年が経ったという報道を見る度に、いつまでも醒めることのない悪夢を見ているような思いになった。

キャンプ場で突然、娘を失った母親
 家族の絶望の深さに思いを馳せるにつれ、ある母に会いたいと思いながらも、すぐには連絡することができなかった。その苦しみに立ち入ることは簡単にはできないと思ったからだ。

 キャンプ場でたった10分間、目を離した際に子どもがいなくなったなんてどう考えても悪夢だろう。追い打ちをかけるようにSNSでは母の振る舞いに誹謗中傷が集まっていた。

 大きな台風が日本を直撃した時も、新型コロナウイルスの流行で緊急事態宣言が発出された時も、私はその母と娘に思いを馳せていた。やがて一年という時間が経ち、何かを決意したような毅然とした彼女の記者会見を見た時に、私はようやく連絡を取ることができた。

 そこで母が語ったのは悪夢ではなく、人間が捨てることのできない「朝の希望」だった。

 小倉美咲はキャンプ場の朝が大好きだ。母のとも子はいつも朝五時頃に起きて、犬の散歩に出かける。それから火を起こして、朝食の準備を行った。

 大きい寝袋で母と一緒に寝ていた美咲も起きて、「ママと散歩に行く」と言い、体いっぱいに朝の空気を吸い込んだ。

「朝のキャンプ場は空気が気持ちよくて大好き。昼は蛇とか熊が出るから怖い。夜はおばけが出るから山が怖い」