日本の皇室とイギリスの王室には、どんな違いがあるのか。評論家の八幡和郎さんは「日本の皇室のストイックさは世界中で評価されている。贅沢せず勤勉で、平和を愛好する、よい家庭人というイメージは、平成の両陛下において頂点に達したが、英王室の流儀に学ぶべきことも多い」という――。

君主の中でも英国王と天皇陛下は別格
英国のチャールズ新国王とカミラ王妃の戴冠式が、5月6日にロンドンのウェストミンスター寺院で行われる。

日本における天皇即位のご大典は、東洋の君主の継承儀式を残す唯一のものであり、英国王の戴冠式は、西洋伝統のキリスト教による即位式を代表する。

現在、世界には30人の君主がいるが、そのなかで英国と日本の王室・皇室は抜きんでて格が高いものとされている。

今回は、なぜこの二つのロイヤルファミリーがすごいのか、また、どちらがどんな点で上なのかを、最近、篠塚隆・前モロッコ大使と共著で『英国王室と日本人 華麗なるロイヤルファミリーの物語』(小学館)でも論じたので、そのエッセンスを紹介したい。

英国王が優位であるのは、チャールズ国王が英連邦諸国のうち、カナダやオーストラリア、ニュージーランド、ジャマイカなど15の国の元首を兼ねていることだ。

また、インド、パキスタン、ナイジェリアなど56の加盟国からなる英連邦(コモンウェルス・オブ・ネーションズで「英」という意味はないので誤訳)の「象徴であり儀礼的指導者」でもある。

ビクトリア女王がうらやましがった「皇帝」の称号
人口は、日本の人口1億2600万人が英国の6700万人をしのぐ。相互訪問のときなどは、この人口や経済の規模で比較するべきだろうが、君主である15カ国の合計が1億5000万人であることは、世界規模では無視できない。

肩書では、日本の天皇はエンペラーと呼称され、格上で儀礼上も上位に置かれるとかいう人がいるが、公式序列は即位の順だけによる(※)。

※「世界でたった1人のエンペラーだから」ではない…天皇陛下が世界中から尊敬される3つの理由(2023/1/2)

歴史的にも、上下関係はドイツ帝国内の皇帝とバイエルン国王などの場合に成立するだけであるし、格上かどうかも同じキリスト教国のあいだで問われるだけだ。だが、第1次世界大戦以来、「皇帝(エンペラー)」は少なくなって絶滅危惧種的な称号なので値打ちはある。

英国のビクトリア女王は、親戚であるロシアやドイツの皇帝の肩書をうらやましがり、ディズレーリ首相がインド帝国を創設して女王を皇帝とした。署名も「VR」でなく「VI&R」とできるようにして喜ばれたから、やはりエンペラーの肩書は王様たちにとって値打ちがあるようだ(Vはビクトリア、Iはラテン語でインペラトリス:女帝、Rはレジーナ:女王。チャールズ国王の署名は「CR」だ)。

「万世一系」の皇室は突出した存在
歴史の長さでは日本の皇室がずばぬけている。紀元前660年2月11日に奈良県橿原市で日本建国があったというのは、少し割り引く必要がある。日向出身の神武天皇が建国したクニの領域は奈良盆地南西部だけで、大和統一は崇神天皇、日本統一は仲哀天皇の時と記紀にも書いてある。


天皇系図(出典=宮内庁ホームページ)
九州の王者が大和を征服したという神武東征のイメージは鎌倉時代以降のもので、古代人の歴史認識ではない。また、初期の天皇の寿命が長すぎるので、調整すれば、崇神天皇は三世紀で、神武天皇は紀元前後ということになる。

ただ、畿内発祥の王朝が四世紀に日本を統一して以来、万世一系で継続しているという大筋を否定すべき明白な理由はないし、一部の人が邪推するように西暦600年頃に王朝交替があったとしても千数百年の歴史だ。

しかも、男系男子継承という厳しい条件をクリアしているから、突出した存在だ。もし、フランスで十世紀から始まった王制が存続していたら、男系男子に加えて嫡出で維持されているから、世界のロイヤルファミリーのなかでライバルになったかもしれない。しかし、1789年のフランス革命で王政は廃止されたため、やはり日本の皇室、そして天皇陛下は現在の君主の中では別格だ。

つづき
https://president.jp/articles/-/69159