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民主党政権が2009年に行った事業仕分けで、次世代スーパーコンピュータ「京」の開発計画は一時凍結された。このとき蓮舫参院議員は「2位じゃダメなんでしょうか」と言い放ち、話題を集めた。サイエンスライターの竹内薫さんは「世界一であれば特許が取れるが、2位では特許が取れない。蓮舫議員はそうした科学技術の世界の掟を知らなかったのだろう」という――。(第2回)
※本稿は、竹内薫『AI時代を生き抜くための仮説脳』(リベラル新書)を再編集したものです。

なぜ日本はいち早くワクチンをつくれなかったのか
本稿では、世の中の出来事や時代の潮流について、仮説力を用いながら読み解き、私たちが今やるべき生存戦略のヒントを探ってみたいと思います。まずは、何といっても新型コロナウイルスのパンデミックについて触れておきたいと思います。

新型コロナのパンデミックでは、個人的に衝撃を受けた事実があります。それは、日本が世界に先んじてワクチンをつくることができなかったこと。日本中にウイルスが広がるタイミングで日本の製薬会社はワクチンがつくれなかったことに対し、きっと多くの人は「日本ってワクチン先進国だったのでは?」と疑問に思ったのではないでしょうか。

この理由は明白で、過去にワクチン行政で大失敗したという黒歴史があったからです。

ご存じの方も多いかもしれませんが、近年日本ではワクチン分野でさまざまな問題が発生しており、その代表的なものが子宮頸(けい)がんワクチンの副反応に関わるものです。

大半の子宮頸がんは「ヒトパピローマウイルス(HPV)」感染によって発症するのですが、国内承認されているHPVワクチンは、約70%の子宮頸がんを予防できると期待されていました。

そして、2013年からHPVワクチンは定期接種に指定され、多数の少女たちに接種されたのですが、ワクチンの接種を受けた少女の一部に「多様な症状」が出たことから、マスコミが大きく取り上げて大騒ぎになりました。

その間に、子宮頸がんワクチンの定期接種化に奔走してきた政治家の身内が、ワクチン販売会社の関係者であったという利益相反問題や、政治的な圧力をかけて定期接種化が進められたという話がメディアで一斉に報じられると、HPVワクチン叩きが始まったのです(「子宮頸がんワクチンの副作用問題に思う」医薬品医療機構・専門委員 三瀬勝利より引用)。

厚労省の責任
このとき、矢面に立たされたのが厚生労働省の役人たちです。ワクチン行政に関わる役人というのは、何も一生ワクチン行政に関わるわけではありません。数年で配置転換があるからです。ところが、子宮頸がんワクチン叩きにあった役人たちは国民やメディアに叩かれ、ワクチン被害者には裁判を起こされてしまい、いわば役人としてのキャリアをつぶされてしまいました。

もちろん、本来であればそこで踏ん張るのが役人の仕事ではあるのですが、たまたま自分がワクチン行政に関わったほんの1、2年でこれだけ責められるのであれば、厚労省はもう何もしないでワクチンから手を引くという結論に至ったわけです。

そのため、日本はワクチン行政が滞ってしまったのです。すると製薬会社も「ワクチンを開発しても、どうせ厚労省も承認してくれないよね」となり、日本はワクチンをつくりづらい国になってしまったのです。

つづき
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